金融検査マニュアルの廃止とその後の影響について 中村中『コロナ危機に打ち勝つ中小企業の新しい資金調達(ビジネス教育出版社,2020)

 中小企業の事業再生に関する書籍を、多数出版れさている、中村中氏の新刊が出ていたので、読んでみたところ、発見がありましたので、記事にします。


■金融検査マニュアルが廃止されても、格付けは残っている?!

 金融検査マニュアルは、(2019年12月に)廃止されることになりましたが、その後の金融庁のガイドラインである「金融検査・監督の考え方と進め方/検査・監督基本方針_2019年6月」(P31_上部)において、以下と明記しました。

 

 このマニュアルが廃止されようとも、このマニュアル廃止は、現状の実務の否定ではなく、より多様な創意工夫を可能とするために行う。

 

 このことは、各金融機関で独自に新方針を明確にしない限り、これらは生き続けることになるということです。


■金融機関の企業審査の変遷

 2019年12月のマニュアル廃止により、金融機関の審査の流れは、以下となったと理解をしていました。

 形式的な企業審査(決算書分析_格付け)が優先順位が下がり、事業審査(事業の実態即した資金ニーズと返済見通しを重視した審査)の優先順位が上がる。

 マニュアル廃止から、約1年が経過しようとしていますが、金融機関とのやりとりのなかで、「事業審査」的なもの(資金繰りを重視する)を垣間見ることが、あまりありませんでした。

 上記の「金融検査・監督の考え方と進め方」でいうように、現実の実務として、形式的な企業審査(決算書分析_格付け)が高いウェイトを占め続けるということであれば、引き続き、格付けに関する理解を深める必要がありそうです。


■リスケを行うと、格付けはどうなるのか?

 「格付け」において、リスケ(条件変更)があることは、以下の通り、格付けを下げる要因になるといわれています。

 

 金融機関は、正常先なら信用貸出を、要注意先なら毎月返済付き貸出を、要管理先から担保提供の交渉を、破綻懸念先ならば、貸出残高を増やさず極力圧縮を、実質破綻先以下は担保処分で貸出残高削減といったように、格付けが下がるにしたがって、取引条件を決めていくようです。


■元金据置期間終了時における、コロナ融資に関する検討事項

 コロナ融資の元金据置期間が終わる1~3年後において、コロナ融資に関して検討すべき事項をまとめてみました。


Q1_返済を継続することが出来るか?

 コロナ融資の返済が、資金繰りをひっ迫することなく、継続できれば、特に問題はありません。

しかし、コロナ融資の借入額が多い場合は、当然ながら返済額も多いので、返済額の減額を検討する必要が生じる可能性が高まります。


Q2_プロパー融資への借換を検討する

 元金据置期間が終了する時点で、保証協会の特別枠(セーフティネット、危機関連)の扱いが終了している場合、保証協会の利用は(枠が一杯で)難しいと思われるので、プロパー融資への借換を検討することになります。

 ここで、約定返済を求められない、「短期継続融資」や「資本性ローン」を利用できると、当面の資金繰りの問題はクリアすることができます。

 「短期継続融資」や「資本性ローン」については、別の記事で紹介します。 


Q3_リスケ(貸出条件緩和)を検討する。

Q4_貸出条件緩和債権の除外要件を検討する。

 プロパー融資への借換が難しいとなると、リスケを検討することになります。リスケをすることで、「貸出条件緩和債権」※2 とみなされて、格付けが下がってしまうと、新規融資のハードルが一気に上がり、金利等の取引条件が悪化する可能性があります。


=================

※2 貸出条件緩和債権に関する定義

~~要約すると

 貸出条件緩和債権とは、「金融機関が、元金の返済猶予等の支援をすることにより、」「総合的な判断して、同水準の信用状況にある他の債務者と比べて、採算が取れていないと判断される債権」をいう。

銀行法施行規則第19条の2第1項五号ロ(4)

 債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者にとって有利となる取決めを行った貸出金

中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 

 元金返済猶予債権(元金の支払を猶予した貸付金)のうち、貸出条件緩和債権に該当す るものとして「当該債務者に関する他の貸出金利息、手数料、配当等の収益、担保・ 保証等による信用リスク等の増減、競争上の観点等の当該債務者に対する取引の総合 的な採算を勘案して、当該貸出金に対して、基準金利(当該債務者と同等な信用リス クを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利をいう。)が適用さ れる場合と実質的に同等の利回りが確保されていない債権」が考えられるとしている。

 この中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の規定の趣旨は、当該債務者と 同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出実行金利を 下回る金利で元本返済の猶予が行われる場合には、債務者に有利となる取決めに該当 し、貸出条件緩和債権となるというものである。

=================


 そこで重要となってくる可能性が高いのが、(制度上は、既に廃止とはなってはいるものの、実務において、「生き続ける」可能性が高い)金融検査マニュアルにおける「除外条件」「卒業基準」と呼ばれるものです。

 金融検査マニュアル(中小企業編)では、「リスケ」を行ったとしても、「貸出条件緩和債権と認定されることを免れる事例_除外条件」「貸出条件緩和債権から脱出することが可能な事例_卒業基準」を事例を交えて紹介しています。

 中村氏は、この「除外条件」「卒業基準」について、以下の指摘をしています。


 「貸出条件緩和債権」に認定されそうであるならば、その企業は、「除外条件」「卒業基準」を再度熟読して、自社は同様な状況にある旨を、金融機関の担当者やその上司によく説明したり文書化して、救済措置を請求するべきと思います。


 この「除外条件」「卒業基準」について、詳しく理解することが、アフターコロナの金融機関交渉において、重要なポイントとなりそうです。

 今後、数回に分けて、この「除外条件」「卒業基準」について検討をします。



【参考資料】

金融庁『金融検査・監督の考え方と進め方』(2019年6月)

https://www.fsa.go.jp/policy/supervisory_approaches.html


金融庁『金融検査マニュアル別冊_中小企業融資編』(2004年2月)

https://www.fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/kensa01.html

 

中村中『コロナ危機の打ち勝つ 中小企業の新しい資金調達』(2020年,ビジネス教育出版社)

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E5%8D%B1%E6%A9%9F%E3%81%AB%E6%89%93%E3%81%A1%E5%8B%9D%E3%81%A4-%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E8%B3%87%E9%87%91%E8%AA%BF%E9%81%94-%E4%B8%AD%E6%9D%91-%E4%B8%AD/dp/4828308601/ref=sr_1_11?dchild=1&qid=1607150728&s=books&sr=1-11&text=%E4%B8%AD%E6%9D%91+%E4%B8%AD

NBCコンサルタンツ 事業再生推進部

NBCコンサルタンツが、主に事業再生に関する情報をお伝えするサイトです。

0コメント

  • 1000 / 1000