金融検査マニュアル別冊_中小企業融資編 事例20_正常運転資金を供給する場合の融資形態及び正常運転資金の範囲


 金融検査マニュアル別冊では、「貸出条件緩和債権」の「除外条件」と「卒業条件」について、事例を交えて紹介をしています。

 今回は、「除外要件」の事例を紹介します。

【タイトル】

事例20_正常運転資金を供給する場合の融資形態及び正常運転資金の範囲


【概況 】

 債務者は、当行メイン先(シェア100%、与信額:平成26 年3月決算期900 百万円)。

 5年前まで住宅建材の製造業者であったが売上不振により転業、現在は地 元のホームセンターを中心に組立て式家具の製造・卸をしている業者である。

 当行与信900 百万円の内訳は、正常運転資金500 百万円(「短期継続融資」・書 替え継続中)と旧事業に係る残債務400 百万円(長期融資・分割返済中)である。

【業況 】

 転業後、債務者の製品は安定的な人気を得て、業況も安定していた。旧事業に係 る債務400 百万円が残っているため、返済負担が重く債務超過に陥っているもの の、期間損益は小幅ながら黒字を確保しており、当行では転業後、正常運転資金500 百万円(手形貸付:期間1年)に応需し、期日に書替えを繰り返してきた。

 しかし昨年、アジア製の廉価品に押され、前期決算(平成26 年3月決算期)で は売上高が前々期比40%減程度まで落ち込み、決算書上の数値から機械的に算出さ れる正常運転資金(売上債権+棚卸資産-仕入債務)も300 百万円に減少している。

 当行では、平成26 年7月の正常運転資金の書替えに当たり、売上減少に伴う減 額書替えを検討したものの、債務者によれば、廉価品に比べた債務者の製品の質の 良さが見直され、売上は回復しており、今期は前々期並の売上を確保できる見通し であり、正常運転資金についても昨年と同額での書替えを希望している。

 当行は、債務者から提出を受けた直近の試算表や、今期の業績予想、資金繰り表、 受注状況を示す注文書を確認・検証するとともに、債務者の製造現場や倉庫の状況 を調査し、製造ラインや原材料・製品在庫の管理に問題がないこと及びホームセン ターでの販売状況を調査し、債務者の製品に優位性が認められることを確認してい る。

   その結果、当行は、債務者の今期の売上回復については確度が高く、前々期と 同程度の正常運転資金を必要としていると判断し、500 百万円での書替えに応じる ことにした。

【自己査定 】

 当行では、債務者は引続き債務超過の状態で、旧事業の残債の返済負担が重いも のの、継続して黒字を維持していることから、債務者区分は引続き要注意先として いる。

 正常運転資金500 百万円については、前期決算書の数値から機械的に算出される 正常運転資金額を大幅に上回る金額での書替えとなったものの、債務者の実態や足 元のキャッシュフローの状況に鑑みて、正常運転資金の範囲内の書替えであり、「貸 出条件緩和債権」には該当しないとしている。


(検証ポイント)

正常運転資金を供給する場合の融資形態及び正常運転資金の範囲

(解説)

1.「短期継続融資」は金融機関の目利き力発揮の一手法となり得る

 金融機関にとっては、債務者の業況等を踏まえた融資が行えるよう目利き力を発揮 することが重要である。 その手法は様々であるが、例えば、正常運転資金について、債務者のニーズを踏ま えた上で、無担保・無保証の短期融資(1年以内)で応需し、書替え時に債務者の業 況や実態を適切に把握して、その継続の是非を判断することは、目利き力発揮の一手 法となり得る。(注1)

 一般的に、債務者の製品の質が劣化し、競争力を失った結果、売上高が大幅に減少 しているならば、今後の業況回復も危ぶまれると考えられる。 しかしながら、本事例では、「短期継続融資」の書替えの可否を判断するに当たっ て、試算表、業績予想、資金繰り表の検証や注文書による受注状況の確認及び製造・ 販売の現場の実地調査等により、債務者の業況や実態(今後の事業の見通しを含む) をより詳細に把握することで、正常運転資金に対するよりきめ細かい融資対応が行わ れている(金融機関による目利き力の発揮)。(注2)

 

(注1)中小・零細企業の資金ニーズに適切に応えるための融資手法に関しては、各 金融機関が創意工夫を発揮し、それぞれの経営判断で柔軟に対応すべきものであ り、その判断が尊重されることは、言うまでもない。


(注2)債務者の業況や実態を把握するための資料徴求や実地調査については、本事 例に記載した資料・調査等が一律に求められるものではなく、債務者の規模や与 信額に応じた対応となる。例えば、債務者が小規模で詳細な資料がない場合等に おいては、必ずしも本事例で例示した資料全てについて、確認が必要なわけでは ない。


2.正常運転資金の範囲は債務者の業況や実態に合わせて柔軟に検討する必要がある

 債務者が正常な営業を行っていく上で恒常的に必要と認められる運転資金(正常運 転資金)に対して、「短期継続融資」で対応することは何ら問題なく、妥当な融資形 態の一つであると認められる。  正常運転資金は一般的に、卸・小売業、製造業の場合、「売上債権+棚卸資産-仕 入債務」であるとされている(金融検査マニュアル・自己査定別表1)。

 本事例の場 合、平成26 年3月決算期の数値に基づいて算出される正常運転資金の金額は、売上 高が大幅に減少しているため、この算定式を機械的に適用すれば、大幅に減額するこ とにもなり得る。

 しかしながら、平成26 年3月決算期の数値は、過去の一時点の数値であり、現時 点の正常運転資金の算出については、債務者の業況や実態の的確な把握と、それに基 づく今後の見通しや、足元の企業活動に伴うキャッシュフローの実態にも留意した検 討が重要である。


3.本事例の結論

 本事例では、前期決算の数値に基づく正常運転資金の金額は大幅に減少することに なるものの、「短期継続融資」の書替えの検討に当たり、前期決算以降の状況の変化 を踏まえて、債務者の業況や実態を改めて確認した結果、売上高の回復が見込まれる こと、足元のキャッシュフローにおいて従来程度の金額の正常運転資金が必要と認め られることから、500 百万円で書替えを実行しても、正常運転資金の範囲内として 「貸出条件緩和債権」には該当しないものと考えられる。


【思ったこと】

 以下の指摘は、短期継続融資に関する金融機関との交渉において、非常に重要だと思います。


 平成26 年3月決算期の数値は、過去の一時点の数値であり、現時 点の正常運転資金の算出については、債務者の業況や実態の的確な把握と、それに基 づく今後の見通しや、足元の企業活動に伴うキャッシュフローの実態にも留意した検 討が重要である。


 事例を使って考えてみます。

 繁忙期と閑散期がはっきりしている業態の場合、正常運転資金の残高は、1年間で大きなGAPが生じることがあることがよく分かります。

 正常運転資金が最大となる時期(以下の事例だと、繁忙期の1月_772百万円)を基準として、短期継続融資の枠を検討する必要があると思います。

 「正常運転資金」をどのように捉えるのか?(実績値、季節変動、将来予測)が重要になることから、以下のような正常運転資金の分析を行い、短期継続融資に関する金融機関との交渉に臨んで下さい!!


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